BESPOKE MY LIFE

後閑信吾氏後閑信吾氏
PROFILE

後閑信吾(ごかんしんご):カクテル界の頂点を極めた、いま世界で最も注目されるバーテンダーの一人。長い海外経験で養った大胆なクリエイティビティと、日本人としての精神性・繊細さを併せ持ったバーテンディングで、新しいカクテルの世界を切り開いている。2017年にはTales of the Cocktail「International Bartender of the Year」を受賞し、2018年、日本初出店となる「The SG Club」を東京・渋谷に開業。自身がプロデュースする店舗で腕を振るう一方、ゲストバーテンダーとして積極的に世界のバー、バーテンダーたちと交流。訪れた国・地域の酒文化や素材の研究も続けている。

日本人で初めてカクテルを口にしたのは、幕末にアメリカに渡った侍だったかもしれない。

日本人で初めてカクテルを

口にしたのは、幕末にアメリカに渡った

侍だったかもしれない。

この「The SG Club」をオープンさせるに当たって、日本人として生まれ、日本で育って、若い頃にアメリカに渡って帰ってきた自分自身の経験を振り返りました。

 

ぼくは「ギャング・オブ・ニューヨーク」という映画が大好きで、あの頃の1860年代の時代背景が頭に浮かんだんです。アメリカでは1920年代に禁酒法というものができて、そこからBAR文化が発展したんですが、敢えて「その前の時代」というのがやりたかったんですよね。それがちょうど1860年代。その時代背景が面白いのが、日本がちょうど開国した直後で、徳川幕府が派遣した「サムライ使節団」がアメリカに渡って初めて本格的に文化交流した時期なんです。1860年6月16日に彼らはニューヨークに着いたんですけど、偶然それがうちの1店舗目の誕生日でもあったんです。

 

そこでイメージが繋がって「日本のサムライがアメリカから戻ってきて作ったBAR」というコンセプトが生まれました。

日本と世界のBAR文化を自分のインスピレーションで融合させていく。

日本と世界のBAR文化を自分のインスピレーションで融合させていく。

日本は、BAR文化が入ってきたタイミングがものすごく早かったんですね。因みに、日本で初めてオープンしたBARも1860年なんですよ。それは外国人が外国人のために作ったお店なので、日本人のためではないんですけど。日本人がカクテルを飲むようになったのは戦後です。それでも実は、そういう国って他にはあまりないんです。海外から文化が伝わって時間が経ってくると、その国の仕様に代わっていくじゃないですか。日本の場合、100年以上前に入ってきているので、だいぶ日本仕様に変わっているわけです。ですが、他の国にBAR文化が伝わったのは意外と最近なので、オリジナルのアメリカやイギリスのスタイルからほとんど変わってないんですよ。例えば、バーテンダーのスタイルや使う道具、飲み手の文化に対する認識や飲み方まで全てが違います。

靴磨き

日本のBARには暗黙のルールや世界観みたいなものがあります。ウィスキーが並んでて、ジャズが流れてて、ぴしっとしたバーテンダーがおしぼりを渡してて、お水は出さないで、ウィスキーのストレートを頼んだ時だけお水が出てきて…。そんなイメージが一般的だと思うんですけど、世界のBARでは、割とその型にはまってないことの方が多いんですね。僕は、それぞれの良いところを組み合わせ、融合できたら良いなと思います。特にメニューはお店のアイデンティティを押し出せる絶好のチャンスの場所なので、味わいはもちろん、ネーミングもできるだけ面白いものにしていきたい。

自分自身が今「これが良い!」と思うことをやれば、必ずどこかに響く。

自分自身が今「これが良い!」と思うことをやれば、必ずどこかに響く。

お店づくりも、カクテルづくりも、全てそうですが、とにかくコンセプトが一番大事だと思っています。後付けの場合も先につける場合もあるんですが、必ずそこは大事にするようにしていますね。例えば、これとこれをこうして、これが合うから完成…とかじゃなくて、そこに何かひとつ面白みや「おお!」ってなったりするポイントは常に作りたいなとは考えています。

 

「ターゲットはどの層を狙っているのか?」とよく聞かれるんですけど、実はあまり考えたことないかもしれません。自分が今「これが良い!」と思いつく、面白いと感じるものをやれば、自然にどこかに響くんじゃないかと思っています。日本人は1つのプロダクトにものすごく力を入れて磨きまくる習性があって、それはそれですごく大事だとは思うんですけど、BARの場合はやっぱり、空間だったり、ライティングだったり、音楽だったり、ファッションだったり、そういったディテールがすごく大事になっていくと思うんですね。

 

例えば、最近上海に出した店は「1983年に想像した2018年のBAR」というコンセプトなんですが、そこでは黒いシャツに、バンダナ巻いて、当時のちょっとしたダサい感じを敢えて演出してたりしてるんですよね。空気感やコンセプトにあっているものを選ぶ。コンセプトを作れば、内装も決まるし、メニューも決まるし、ユニフォームも決まるし、サービスの形も決まります。

次々に新しいクリエイティブを発信して、次代のクラシックをつくる。

会話の中にこそ、クリエーションのヒントがある。

おそらく、いま皆さんが思い描くBARやバーテンダーのイメージって、あんまりかっこいいに繋がらないと思うんですね(苦笑)。今、「焼酎」を素材として使うことにチャレンジしようとしているんですが、焼酎もそうです。おじさんが飲むものというイメージがきっとあるでしょう。だから、BARのイメージももっと変えていきたいし、焼酎のイメージも変えていきたい。できればBARで呑むもの全てが、「スーツを着こなして飲みたい」と思えるものに変わっていったらいいなと思います。

 

一方で、「BARを皆のものにしたい」という思いがあります。日本ではあまりBARに行かないじゃないですか。BARに行く選択肢が少なくなってるっていう印象が僕らにはあります。なので、The SG Clubでは色々な人に色々な楽しみ方をしてもらうために3フロアに分かれていて、価格帯も含めて雰囲気も全部変えているんです。その先にお酒の美味しさや格好良さを発信していきたい。

 

例えば、80年代のカクテルって、今「クラシックカクテル」という位置付けになってきてるんですけど、まだ30年なんですよね。とすると、今作ったものは50年後にクラシックになる訳じゃないですか。どんどん新しいものを作っていって、それをクラシックにしてあげることが大切なんですね。それはもうファッションも建築も全部一緒だと思うんです。だから、クラシックを守っていく一方で、クリエイティブなものをどんどん発信して、次の世代のクラシックを作っていけたらいいなと思います。

葉巻と後閑氏
LIFE STYLING by CLOTHO
後閑氏立ち姿
STYLING
POINT

会員制という秘密基地で美味しいお酒とシガーに心ゆくまで酔いしれる。

 

そんな特別な空間には、特別な装いで。

 

会員制のシガーバーで働く際に着用できる服をオーダーしたい。とお話を伺った瞬間に、赤のスモーキングジャケットでシェイカーを振る後閑信吾さんが自然と目に浮かびました。落ち着いたワインレッドのベルベットを引き立たせるために、パンツはシンプルなブラックを合わせました。少しラフに着こなしたいときはデニムに合せても◎

思わず唸るセンスの良さと細部へのこだわりや探求心がメニューやお酒、空間、洋服の着こなしに至るまでの全てから感じられました。後閑信吾さんはまさに新しい時代のスタイルアイコンです。